2015/04/27

立体音響で奏でる「地球暦」の世界観


私達シンタックスジャパンは、先進的で高品位な音響機材やソフトウェアをクリエーターやエンジニアの皆様に紹介するだけではなく、真のハイレゾ・コンテンツを発信するレコード・レーベルの運営や、様々なアーティストをサポートする活動を日々積極的に行っています。

今回のブログでは、昨今各方面のメディアで注目されている「地球暦」という次世代のカレンダーを考案し、インスタレーションや講演等、様々なイベントやメディアを通じて、積極的に地球暦というビジョンを広める活動を行うアーティスト、杉山開知(すぎやまかいち)さんを皆様に紹介したいと思います。

シンタックスジャパンでは、昨年名古屋 garelly feel art zeroにて行われた【太陽系時空間地図 地球暦 -あそび / a・so・bi - 】展、そして10月に青山スパイラルガーデンにて行われたTHE ART FAIR + PLUS-ULTRA 2014での展示、さらに今年、東京お台場の日本科学未来館にて行われた、世界的に有名な理論物理学者 佐治晴夫博士との特別公演【ぼくらの地球は動いている】での音響を、全面的にサポートさせていただきました。

名古屋のイベントでは、RME Fireface 802を使った8.1chサラウンドによる立体音響システムを構築し、地球暦の世界を音で表現した音響作品を会場一杯に響かせ、まさに宇宙から太陽系を見ているような「包まれ感」を演出しました。さらに、展示の千秋楽では、そのまま8.1chサラウンドを再生しながら、総勢5名によるライブ演奏をマルチトラックで収録。

青山での展示では、地球暦のスピンオフ作品「Spaceflower」の音声を、Babyfaceを使い高音質のままヘッドフォン再生しました。


また、日本科学未来館でのイベントでは、NASAの宇宙探査機ボイジャーに託された「ゴールデン・ディスク」のプロジェクトに関わった科学者としてあまりにも有名な、佐治晴夫博士の貴重な講演と杉山開知さんとの対談を、会場のPAを行いながら同時にマルチトラック録音を行いました。ここでは、RMEのFireface UFXを使い、優秀なデジタル・ミキサーとしても使うことができるTotalMix FXソフトウェアをフル活用しながら、DAWソフトと同時にFireface UFX本体に搭載されたDURec機能をバックアップとして使用し、その全てを収録しました。

















さらに次回イベントとして、2015年6月19日(金)~ 6月27日(土)の期間、札幌モエレ沼公園スペース1にて、昨年名古屋でのインスタレーションをさらに発展させた立体音響システムを、RMEの機材を使って構築いたします。お近くにお住まいの方は是非この機会に、地球暦を立体音響で体験してみてはいががでしょうか?
地球暦の展示が行われる、札幌モエレ沼公園のガラスのピラミッド
さて、前置きが長くなりましたが、ミュージシャンとしての活動も行なっている杉山開知さんは、「音」に対しても大変造詣が深く、私達がお手伝いしたイベントでも常に「音」にまつわる展示や話が多く登場しますので、このブログの読者の皆さまにもきっと興味深く感じていただけるのはないかと思います。

では、杉山開知さんの語る「地球暦」と「音」のお話しをお楽しみください。


◉どのようなきっかけで「地球暦」を作ろうと思ったのでしょうか?また、「地球暦」とは一体なんでしょうか?


そもそもわたしたちの世代は、外から太陽系を俯瞰する視点を持つことができた初めての世代であり、これは人類にとって有史以来大きな進歩ではないでしょうか。
地球暦:太陽を中心に全ての惑星の軌道が描かれ
ており、その日の惑星の位置を即座に俯瞰で確認
することができる画期的なカレンダー 
私たちはお茶の間にいながらも、宇宙的な視点を持つことによって、太陽系という大時計が動いている背景を、環境の一部として感じはじめて来ているような気がします。近い将来は言語や文化の壁を越えて、“私たちは今ここいる”という太陽系レベルでの“共時性”を当たり前に持つ時代になると考えています。また、時間の感覚そのものは個人差があり主観的なものですが、客観的に全体を眺めることで、地球人としての私たちの立ち位置が見えてくるような気がします。そういう時代の中で、立場や個、もっと言うならば、国境さえも超えて“同じ時”を共有することのできるツールの必要性があると感じたのです。

宇宙からの視点で見てみると、“太陽・月・地球”という天体による単純な位置関係が、日常的に使っている“年・月・日”という暦の基本単位となっていることに気づくと思います。暦の本質は数字や記号というよりも、“私たちはいったい今、どこにいるのか”という存在の位置を、俯瞰して確かめることだと思います。
地球暦は、天動説(太陽暦)の視点を、あらためて地動説(地球暦)で捉えた、太陽系の地図のようなものです。

◉昨年名古屋で行われた[太陽系時空間地図 地球暦 -あそび / a・so・bi - ]展では、「地球暦」のコンセプトを、音と映像で表現していたと思うのですが、開知さんが「音」で地球暦を表現したのには何か理由があるのでしょうか?

楕円軌道の上を進む太陽系の惑星たちを俯瞰してみると、レコードの円盤のように平らな面を回ってることに気づきます。それぞれの惑星は決まった軌道上を、一定の周期でめぐっているわけです。この様子は太陽系をソーラ・システムという呼ぶように、とてもシステマチックに関わりあって、法則性のようなものを持って回転運動しています。
地球の1年は正確に、365日と5時間48分49秒ほどですが、これを1トラックという考え方をすれば、例えば二十四節気のように、きっちり24等分する節目は、楽譜やスコアの区切りのように捉えることができます。そこに新月や満月などが一定のリズムでビートを刻み、毎年同じようではあるけれども変わっていく惑星たちの動きは、見方によっては、まるで音楽の譜面のように見えてきます。
暦とは天体の動きそのものですが、惑星の動きを時間軸(タイムライン)で見てみると、その規則性が、どこか電車などのダイアグラムに似ています。定刻通り運行している惑星たちの動きが、音楽的なイメージと重なったのはごく自然なことでした。私自身もそれを実際に聞いてみたらどうなのだろうかとずっと気になっていたんです。


the time, now 2015 from HELIO COMPASS on Vimeo.


◉イベントでは「地球暦」の世界観を音で表現するために、弊社で8.1chの立体音響の再生システムを組ませていただいたのですが、実際にハイト・レイヤーを含む8.1chサラウンドを体験してみていかがでしたか?


人間が胎内で成長するとき、聴覚は早期に形成されると同時に、完成するまでにもっとも長い時間がかかる器官と言われています。
たった一枚の鼓膜が、ここまで繊細な音色をキャッチすることを思うと、人間の聴覚はどんな機材も優る受信機ではないでしょうか。音は、よく目に見えないものとして認識されていますが、極めて物理的な特性を持っています。空気や水を伝搬して振動する自然界の音は、環境中にあふれていますが、日常的に耳に入ってくるサラウンドに対して、楽曲というサウンドは、感覚や感情など、その時の風景や気持ちなどを記憶している不思議さがあります。
今回、立体音響のシステムを使って感じたことは、クリアーで解像度の高い再現性を持った機材ということはもちろんですが、音を通じて伝わる不思議な奥行きというか、場の臨場感を感じたことが第一印象でした。その場に立つと、耳から入ってくる外界の音とともに、ついつい沸き上がってくる情感に耳を澄ませてしまうんです。
特に、今回イベントで流れていた、探査機ボイジャーが収録した惑星の音(電磁波)などは、普通のスピーカーシステムでは単純なノイズのようにしか聞こえないのですが、まるで星そのもの心音や胎動のように感じたのは驚きでしたね!

◉[太陽系時空間地図 地球暦 -あそび / a・so・bi - ]展ではサイマティクスの表現もありましたが、出てくる波形の美しさにとても感銘を受けました。この展示は、どのような経緯で思いつき、どのようなシステムで動いているのでしょうか?

サイマティクスの装置 
サイマティクスというのは、例えばスピーカーの前に水の入ったコップを置くと、音に合わせて水が揺れるのと同じ単純な原理です。しかしよく考えると、触れてないのに物質が振動するというのはマジックのような驚きがあります。種を明かしてしまえば、水がある固有振動で特定の波形になるという簡単なことなのですが、実際にやってみて面白いなと感じたのは、キャップ一杯のわずかな水が、1ヘルツや1デシベルという微妙な変化をはっきりと反映していたことです。また周波数の異なる2つの音を同時に出すと、その差分で倍音が“うなり”として聞こえるのですが、美しい幾何学的な形が、生き物のように有機的に動いて形を変えて、水があたかも感情を持っているような振る舞いをしたことは、あらためて衝撃な体験でした。
今回は、各惑星の公転周期を、人間の可聴音域で聞こえる低周波に換算した音を使ってみたのですが、実際やってみるまでは成功するか不安だったんです。しかし水に話しかけるように音を丁寧に調整してくと、惑星の動きに合わせて、鮮明に波形が浮かび上がってきた時は感動でしたね。また目に見えない音や時間で、視覚的に美しいビジュアルを作ることは、とても楽しい“あそび / a・so・bi ”でした。
探査機ボイジャーが収録した惑星の音(電磁波)は、木星や土星など種類があるのですが、実は地球だけ特別な音色をしています。その理由はこの地球には14億立方kmもの水が存在し、宇宙に繊細に震動を響かせているからなんです。地球全体の水がリアルタイムでサイマティクスのように美しく響いていることを想像すると、私たちの身体の水も気持ちによって形が変わるのも不思議ではないような気がします。いい音にたくさん出会いたいと望むのは、きっと美しい形が気持ちいいと感じる、人間の本能的なところからくるものなのでしょうね。

◉展示の最終週には、9chの立体音響をバックに流しながら、総勢5名のメンバーでライブ演奏を行いましたが、このライブで表現したかったものは? 


すべてがはじめての経験で、実験的なチャレンジでした。
ライブでは太陽系の1年間を約1時間の音楽で表現するというシンプルな趣旨ですが、実際に演奏となると試行錯誤でした。
まず、惑星の公転周期を、人間の可聴域に換算した周波数を使い、それを重ね合わせて惑星の会合を表現することにしました。
そしてギャラリーで別展示をしていた日栄一雅さんの「ひかりレコード」という作品をお借りし、惑星の配置を盤の上で変えることによって、インタラクティブに周波数を出力する仕掛けを作り、サイマティクスで水を震わせる装置と連動させ、会場内に水の波紋の映像を映し出しました。

惑星の一年の動きをベースに表現した楽曲をもとに構成し、そこにサンプリングの音をDJで重ね合わせたり、エレキギターなどの生演奏や惑星周波数音叉の出す音などが加わり、太陽系の時空間を演出しました。現代美術作家のコラボレーションでサイマティクス装置の制作を実現し、さまざま環境音やパフォーミングを加えてライブを行いました。楽器以外は8.1chの立体音響を使い、音叉などのわずかな音など、壮大な宇宙を想像させるような広がりのある空間を作り出すよう工夫をしました。
また、冒頭では実際に地球が動いている時に発している電磁波の音源を、立体音響で再現したのですが空間を感じさせる音場は圧倒的でした。
1年間の主な天文現象の節目にはナレーションを入れ、「宇宙船地球号」の旅をみなさんと味わった大変貴重な機会でした。
ライブそのものは実験的な要素が多かったため、未完成の部分もありますが、宇宙という大きなテーマによって、音の持つ創造性や可能性がさらに広がったと思います。また機会があればチャレンジを続けていきたいと思います。


◉開知さんが、サウンド・インスタレーションを行う際に、再生機器に求めるものはなんでしょうか?


宇宙の音と言っても、実際に真空の宇宙空間で音は伝達されません。音楽は大気につつまれた地球の中でだけ聞くことのできる楽しみでもあります。

ですから、宇宙的なテーマを持ったサウンドインスタレーションで大切なのは、想像力の広がりではないかと思います。音楽は感性によって十人十色のさまざまな表現が可能ですが、特にこのような空間アートは受け手の感性が大切ですから、その場に足を踏み入れた時に感じる、なんというか“空気感”みたいなものが求められます。それが環境音や周波数ノイズなどといった抽象的な表現になるほど、音響機材の役割が大きく、音質が直接、目に見えないものを感じさせる存在感につながると思います。
音の機微を正確に再生することのできる安定性、そして多チャンネルをスムーズに制御することのできるソフトウェア、インターフェースの使いやすさなど、展示の演出を影で支えてくれました。今後はその特性をいかして、デジタル音源なども加え、さらに表現力のある演出を試みたいと思いました。

あとは演奏者のパフォーマンスですね(笑)




プロフィール
[ 杉山  ]Kaichi Sugiyama

太陽系時空間地図 地球暦考案者。
静岡在住。半農半暦の生活をしながら2004年から本格的に暦をつくりはじめ、古代の暦の伝承と天体の関係を学ぶ。その過程で暦の原型は円盤型の分度器であることに気づき、2007年、太陽系を縮尺した時空間地図を「地球暦」と名づける。今、多分野から注目されているキーパーソンの一人。

太陽系時空間地図 地球暦オフィシャルウェブサイト  http://www.heliostera.com


【次回イベント告知】

[太陽系時空間地図 地球暦HELIO COMPASS 2015 〜水の惑星 地球より〜 ]
2015年6月19日(金)~ 6月27日(土)@札幌モエレ沼公園スペース1







1 件のコメント :

  1. とても興味深い内容でGOODでした。THANKS!

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